対馬体験記

Case 1:坂本君の場合
対馬エコツアー体験:シーカヤックで浅茅湾を巡る

写真-1 海から見た浅茅湾

写真-1 海から見た浅茅湾

浅茅湾というところ

 対馬の中央に広がる浅茅湾。リアス式海岸と呼ばれる複雑な海岸線に囲まれたこの湾は対馬は真っ二つ、南北に分ける:上対馬と下対馬だ。浅茅湾はその雄大で美しい景観を評価され、全域が壱岐対馬国定公園に指定されている。

浅茅湾と大和朝廷

 内海である浅茅湾は風や波の影響を受けにくく、古来より大陸と日本本土を往来する大陸航路の天然の港を提供してきたことで知られている。また朝鮮半島に向かってその口を大きく開けているため、外敵の侵攻に弱いのも特徴である。そのせいであろうか大和朝廷は今から1300年以上も前(667年)、朝鮮半島であった戦争に負けた後この国境の島に防衛のため金田城(かなたのき)を築き上げた。選んだ場所は浅茅湾に突き出る城山(じょうやま)と呼ばれる岩塊の上。今でも当時のその規模を語る石垣が残っている。

シーカヤックで浅茅湾を行く

 坂本君は今回カヤックによる海岸観察の可能性を調査するため、この浅生湾に仲間の5人と2015年11月中旬に訪れた。

 お世話になったのは対馬エコツアーの上野芳喜氏と調英実氏。二人とも地元の方たちだ。坂本君は、「海からのアプローチ方法として用いたシーカヤックは喫水線が低く,膝下ほどの浅瀬にも近づくことができ,船などでは近づくことができない海岸にも上陸することが可能である.シーカヤックに乗り,波穏やかな浅茅湾を漕いで行く中で,陸から観察するのとは異なる景色が海に広がり,海と空の広大さを感じながら,浅茅湾の変化に富んだ入り江を自由に散策することができた」と述べる。

 坂本君によるとシーカヤックの利点は喫水線が低く、船では近づけない膝下ほどの浅瀬まで個人個人自由に進んで行くことができるところだ。個人のペースで行きたい岸辺に辿り着く。そして自由気ままに目にする光景、肌に感じる冷たい風や太陽の温かさ、水しぶきを思う存分満喫する。これが体験ツアーの醍醐味である。コンピュータの前でネットサーフィンし対馬の写真を見ていてもビジュアル感は伝わってくるかもしれないが、大自然の中にいる、あの開放感は味わえない。

 観察力を思う存分発揮した坂本君は浜辺を形成する様々な形をした石を見て喜んだり、対馬の荒波が造りだす島々の海蝕崖に感激を覚え、また色とりどりの木々に覆われた島の美しい景色に感動した。まるで全てが自然の醸し出すマジックのように。

 しかしそういった中、坂本君はあることに気付く。

 それは漂着ゴミの多さだ。これは海岸が抱える避けて通れない環境問題であり、雄大な自然的景観をもつ浅茅湾も例外ではない。

写真-2 浅茅湾の島に打ち上げられた漂着ゴミ

写真-2 浅茅湾の島に打ち上げられた漂着ゴミ

 坂本君はこのツアーを次のようにまとめている。

 今回の調査で体験した対馬エコツアーは,自然環境や歴史文化などの地域固有の魅力を伝え,その価値や貴重さを理解することで保全につなげていくことを目標としたエコツーリズムという理念に基づいたものである.エコツアーは,観光客に地域固有の資源を伝えることで,地域の住民に自分たちの持つ資源の価値を再認識させ,地域の観光の独自性を高め,活性化させることだけでなく,その結果,地域の一連の取り組みにより地域社会そのものの活性化へと結び付くと考えられる.このような取り組みの中で,今回の調査では,シーカヤックを漕ぎながら,自然の豊かさとその自然の持つ歴史を体感でき,対馬でしか見ることのできない景色を味わうことができた.

 感受性の強い若者にこそ、大自然の脅威に向かい合う時間が必要だと思う。その中で自分の存在や見解、自分の知っていることや知らないこと、そして自分自身の大きさなど立ち止まって学ぶことが出来るから。己を知る、ということが自己の成長に繋がっていく。

写真-3 浅茅湾の景色

写真-3 浅茅湾の景色

写真提供:坂本 崚
文:岩崎 由美子

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